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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)124号 判決

一 請求の原因一ないし四の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の取消事由について検討する。

1 請求の原因五1の主張について

成立に争いのない甲第二号証の三によれば、原明細書の発明の詳細な説明の項には、その冒頭に、本願発明を簡潔に説明した記載があり、これに引き続いて、自動車の廃車から鉄スクラツプバンドルを作る場合について本発明を説明した第一実施例、普通の鉄スクラツプを用いる場合の第二実施例の説明があり、これに終つていること、右の冒頭部分、第一実施例、第二実施例についての記載は、次のとおりであることが認められる。

(一) 冒頭部分の記載(原明細書一頁五行ないし一〇行)「「本発明は、それ自体に脱酸その他の精錬効果を得るスクラツプバンドルを得るために、スクラツプバンドルの集積中にその集積工程中に生石灰、石灰石、酸化マンガン(マンガン鉱石)スケール等の脱酸その他の精錬剤を添入して一体に構成したスクラツプバンドル及びその製造方法に関するものである。」

(二) 第一実施例の記載(同一頁一三行ないし二頁九行)

「廃車からスクラツプバンドルを作る場合において、自動車廃車を先づ熱炉内に装入して四〇〇度C~一〇〇〇度C程度に加熱して硝子、鉛、アルミニウム、銅等の非鉄材料を熔解して分離したものを圧縮装置に移して、強圧縮して純鉄スクラツプバンドルを従来公知の方法に従つて作る。

この場合に本発明においては、その圧縮工程中にバンドル集積中に生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸その他の精錬剤を装入してこれ等を一体に圧縮成型させる。

この鉄スクラツプバンドルは、これを熔解炉に装入して熔解するときは、その介装脱酸、精錬剤が直ちに作用して脱酸、精錬をさせるために炉内において迅速に崩壊して熔解速度が促進されると共に極めて歩留りのよい製鉄ができる。

又、このバンドルの中央又は外側に、圧縮シリンダ等を用いて適宜の孔を設けるときは加熱面積を大きくして熔解効果を増大させる。」

(三) 第二実施例の記載(同二頁一一行ないし一四行)

「普通の鉄スクラツプの場合においては、マグネツト集貨装置等を用いて圧縮装置に装入して第一実施例同様の工程によつて鉄スクラツプバンドルを圧縮成型する。」

原明細書の右発明の詳細な説明の記載と前記当事者間に争いのない本件補正前の特許請求の範囲の記載並びに原告が請求の原因五1(一)において主張し自認しているところの本願出願当時、「鉄スクラツプバンドルは輸入品の方が大きく、国産品の方が小さいのであるが、大きさは最大のものでも二トンぐらいしかなく、これには生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸その他の精錬剤が入つていないことは製鋼業者の常識事項である。」との事実によれば、本願発明は、大きさが最大のものでも二トンぐらいしかなく脱酸その他の精錬剤が入つていない鉄スクラツプバンドルが常識であつた時点で、「それ自体に脱酸その他精錬効果を得るスクラツプバンドルを得るために、」鉄スクラツプ群の圧縮工程中に、鉄スクラツプ群に脱酸その他の精錬剤を介装させ、これらを一体にして圧縮成型させ、また、このものの内部又は外側に適宜の孔を穿設して加熱面積を増大させ、もつて、「熔解速度が促進されると共に極めて歩留りのよい製鉄が生れる。」、「熔解効果を増大させる。」という効果を生じさせるものであることが認められ、原明細書には、右発明に即した技術事項は開示されているが、それ以外の技術事項特に原告が主張するような鉄スクラツプ群を電気炉の容量に合わせて一個団塊に成型することの技術思想及びその効果については何ら記載されていないと認められる。

原告は請求の原因五1(一)において原明細書の発明の詳細な説明の項の前記冒頭部分の「一体に構成した」との記載及び第一実施例の第二段の「一体に圧縮成型させる」との記載が一個団塊のスクラツプバンドルを想定したものであると主張するが、後者の「一体に圧縮成型させる」とは鉄スクラツプ群と脱酸その他の精錬剤を一体にして圧縮成型させることを意味することは右記載の前後の文脈から明らかであり、前者の「一体に構成した」との記載も同趣旨であると推認されるし、その余の記載をみても、炉の容量に合わせた大きさにスクラツプバンドルを成型することは何ら示唆されていないことが明らかである。また、原告の主張する鉄屑の種類、使用量、価格等と一個団塊化とは直接に結びつくものでないことは自明であり、原告の右主張は失当というほかはない。

次に原告は、前記第一実施例の第三段の「崩壊」という記載を根拠に前同様の主張をする(請求の原因五1(二))が、そこに用いられている「崩壊」との語が炉内における高温加熱時に圧縮成型されていたスクラツプバンドルが熔解する現象を表現したものであることは明らかであり、このことは多数個のスクラツプバンドルを炉内で熔解する際その個々のスクラツプバンドルにも生ずる現象であつて、炉の容量に合わせて成型したスクラツプバンドルにのみ生ずる現象ではないから、右の記載があるからといつて原明細書の記載を原告の主張するように解釈することはできない。

また、原告が請求の原因五1(三)で主張するところは、一個団塊化と何ら技術的に結びつかない主張であつて、主張自体失当というほかはない。

ところで、成立に争いのない甲第八号証によれば、原告は、その名称を「鉄スクラツプバンドル」とする発明につき一九六六年九月二二日に米国において特許出願し、一九七二年七月四日、第三六七四四四四号として特許を受けたこと、この特許明細書のクレーム第一項及び第七項には、「一個の熔解炉中に導入するのに適する一つの鉄(第七項では金属)スクラツプバンドルにおいて」との記載があること、この米国出願は、本願と昭和四一年三月二八日にわが国においてした特許出願(特願昭四一―一八七〇九)に基づく優先権を主張して出願されたものであることが認められる。しかし、右米国出願は、右認定のとおり本願のみならず特願昭四一―一八七〇九にも基づいて優先権主張がされているのみならず、部分優先の制度(パリ条約四条F)があることを考慮すれば、右米国特許明細書に一個団塊化の技術思想が開示されているからといつて、本願にその技術思想が開示されていると直ちにいえないことは明らかであるから、同号証によつて原告主張事実を認めることはできない。

他に原告主張事実を認めるに足りる証拠はない(甲第二二号証の一に示された見解は採用に値しない。)。

2 請求の原因五2の主張について

成立に争いのない甲第五号証によれば、日本鋼管株式会社の「NK―MC式ワンブロツク・スクラツププレス」のカタログが信行社によつて昭和四一年三月一日に完成されたこと、このカタログには、日本鋼管株式会社が「電気炉に挿入する際ワンブロツクにプレスしたスクラツプ塊を挿入することにより大巾なコスト引き下げが可能になる事に着目し研究を進め……NK―MC式スクラツププレスを開発」したことが記載されていることが認められる。このカタログが同年三月中には日本鋼管株式会社によつて配布されたことは成立に争いのない甲第一八号証によつて認められるが、本願出願の日である同年同月七日前に配布が開始されたことを認めるに足る証拠はなく、仮に前記三月一日に信行社から日本鋼管株式会社に納品され直ちに配布されたとしても、本願出願の日までの僅か六日間に業界の広い範囲に配布されたものとは到底認めることができず、右カタログの配布によつてスクラツプ群を炉の容量に合わせて一個の団塊とする技術が本願出願当時一般に知られており技術常識になつていたということはできない。原告は、右カタログが本願出願後の同年三月三一日までに完全に頒布されていたと主張し、この事実もまた一個団塊化の技術が本願出願当時技術常識になつていたことの根拠となる旨述べて、最高裁判所判決(昭和五一年(行ツ)第九号事件)を引用するが、右カタログには一個団塊化の技術が本願出願当時技術常識になつていたことを推認できる記載はないので、原告の右主張は失当である。

かえつて、前掲甲第五、第一八号証によれば、日本鋼管株式会社がスクラツプを炉内容積と同等の容積のスクラツプブロツクに圧縮成形する装置を開発してこれを発表したのが本願が出願されたと同じ昭和四一年三月であり、この装置にかかる発明が特許出願されたのが同年七月九日であること、成立に争いのない乙第一五号証によれば、被告補助参加人が一個団塊方式用のプレス機を開発し特許出願したのが本願出願後の同年四月一日であることが認められる。そして、右甲第五号証のカタログのほかに本願出願前一個団塊方式に関する技術を開示公表した文献が存することは本件証拠上認められないし、前叙のとおり本願出願当時輸入品又は国産品の鉄スクラツプバンドルの大きさは最大のものでも二トンぐらいしかなかつたことは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第一一号証の一によれば、原告はその宣誓陳述書において、「一九六五年に、手塚氏は、電気炉の上部の壁に多くのバンドルの未熔解部分が固着する問題を話した。手塚氏は数多くの小さなバンドルを数回にわたつて挿入するのを無視して、電気炉に一個の大きなバンドルを入れて今までと同様に熔かそうと試した。」(訳文二丁表一行ないし五行)と陳述していること、すなわち、原告自身一九六五年(昭和四〇年)当時には多数個団塊方式が一般に行われており一個団塊方式はいまだ試案の段階であつたことを認識していたことが認められる。右の各事実によれば、本願出願当時には多数個団塊方式が一般に行なわれていた技術であり、一個団塊方式に関する技術は、特定少数の者に試案として知られていたとしても、一般に知られた技術常識にはなつていなかつたものと推認できる。甲第六、第七、第一五号証及び証人尾関三郎治の証言は右推認を覆すに足るものではなく、本件全証拠によつても原告主張事実を認めることはできない。

3 以上のとおりであるから、原告が仮にスクラツプ群を電気炉等の炉の容量に合わせて一個の団塊に成型することの技術手段を知つていて、これを含めて本願発明をしたとしても、このことが原明細書に客観的に明示して記載されていなければ、第三者はそのことを知ることができないものといわざるを得ず、原明細書には右技術手段が客観的に明記されていないことは前叙のとおりである。そして、右の技術手段が製鋼能率を増大するという格別の効果を奏するものであることは当事者間に争いのない事実であるから、本件補正は原明細書の記載に新たな技術事項を追加し、これによつて本願の特許請求の範囲に記載された発明の解釈に変更をもたらすものであつて、原明細書の要旨を変更するものといわざるを得ない。したがつて、本件補正を却下した決定は相当であつて、これに取り消すべき違法な点はない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

本件補正前の特許請求の範囲

第一、鉄スクラツプ群の圧縮集積成型体にその圧縮工程において集積中に生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸、精錬剤を介装して成ることを特徴とする鉄スクラツプバンドル。

第二、鉄スクラツプ群の圧縮集積成型体にその圧縮工程において集積中に生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸、精錬剤を介装したものの内部又は外側に適宜の孔を穿設して加熱面積を増大させて成ることを特徴とする鉄スクラツプバンドル。

第三、鉄スクラツプ群を圧縮成型装置に装入し、その圧縮工程中にその集積中に、生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸、精錬剤を介装させることを特徴とする鉄スクラツプバンドルの製造方法。

第四、鉄スクラツプ群を圧縮成型装置に装入し、その圧縮工程中にその集積中に生石灰、石灰石、酸化マンガン等の脱酸、精錬剤を介装させた後に油圧シリンダ等によつて穴明けをさせることを特徴とする鉄スクラツプバンドルの製造方法。

本件補正明細書記載の特許請求の範囲

(一) 屑鉄材群を圧縮装置に移して強圧縮して、鉄屑材のバンドルを成型するにあたり、その成型圧縮過程中において、その集積団塊の外表面に孔又は条溝を複数個設け、これらの孔又は条溝により外表面に加熱伝導を促進する凹凸面が形成されるように成型することを特徴とする屑鉄材から易熔解性の鉄スクラツプバンドルを製造する方法。

(二) 屑鉄材群を圧縮装置に移して強圧縮して、鉄屑材のバンドルを成型するにあたり、その成型圧縮過程中において、その集積団塊任意層間に脱酸処理剤又はその他の精製用処理剤又は以上の組合わせを介装して順次強圧縮集積成型することを特徴とする特許請求の範囲第一項に記載の方法。

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